接近

「昨日、葛城さん何か仕事してても、気持ち入ってなかったみたいで、どうしたのかな?って思ってたんだけど、葛城さん思い出したら渡辺さんの書類も思い出して。」

 

 

「す、スミマセン!ぼ〜っとしてたら、キチンと書類渡したか気になりますよね!」

 

「や、そう言う意味じゃなくて…心配してたんだけど。言い方悪かったね。」

 

「あ、いや、こちらこそスミマセン。大丈夫です」

 

「そお?昨日は全然大丈夫じゃなかったように見えたけど?」

 

「あ…
えと、昨日はちょっと…。」

 

誠二の事は今までも、ずっと悩んでたけど、昨日は別れを言うか言わまいかで、かなり悩んでたからな…

 

「あー…実は昨日彼氏と別れちゃってですねー。えへへ。今日はもう大丈夫ですっ!スミマセン!今日はボンヤリしませんから!」

 

「そおなんだ。ごめん、悪い事聞いちゃったね」

 

「や!
全然大丈夫です!!」
「こんな時は、飲んで忘れないと!今日おごるよ!」

 

「は?」

 

「…ダメかな」

 

「あっ…いや。あの…ビックリして。」
城木さんとどっか行くのなんて営業の帰りにランチとか、それか会社の誰かが他にいて飲みに行くとか、そんなだから。
直にお誘いは初めてでビックリした。

 

「僕で良ければ愚痴でも何でも聞くしさ、行こう」

 

「わ、わかりましたっ!グチらせて頂きますっ」

 

「葛城さん、面白い」
城木さんはプッと笑うと自分の机に行ってしまった。

 

うわー、緊張して変な事言っちゃった。
他の女子社員に恨まれないようにしないと。
とりあえず、仕事、仕事。

 

私は、午前中に来られるお客様の為に
一生懸命書類や原稿など見直した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ありがとうございました。一生懸命頑張ります。宜しくお願いします。」

 

「こちらこそ、引き続き宜しくお願いします。」

 

私は帰って行くお客様に深々と頭を下げ、お見送りした。

 

お客様の乗ったタクシーがブォンと唸り出発した。

 

私は、ホッと胸をなで下ろし、1階ロビーのティールームでミルクティーを買った。

 

カコンと紙コップが落ち、熱い紅茶が注がれていくのを、覗いていた。

 

ピピッと出来上がりの音がなると、私は紙コップを取り出し熱い紅茶をすすった。
紅茶を飲みながら窓の外を覗く。
…やった。私の初仕事、お客様に喜んで貰えた。
仕事、頑張る気になれるなー、嬉しい。
その時、後ろから低い声が。

 

「おつかれ」

 

私はビックリして振り返った。

 

「うわっ」
「きゃあ」

 

相手が持っていたファイルや紙の束がバサバサと落ちた。紅茶が少しこぼれる。
「あ、高畑さんっ!スミマセン、ごめんなさい!」

 

「いや、…俺が近づき過ぎた。」

 

高畑さん…各都道府県に支社をもつ大きなハウスメーカー会社の課長さん。社員教育マニュアルなど、大きな会社だけに枚数がハンパなくて、ウチに印刷を頼んでいる。
あと、もちろんお客様用のパンフレットなどもさせて頂いてる。
部下に頼めばいいのに、マニュアルの事は任せられないみたいで、たまにこうしてやって来て、手直しを頼んでくる。
まぁ、お得意様なんだけど。

 

担当は、城木さんなんだけど、私も席をご一緒して勉強させて貰ったり、お茶を出したりしてるから私の事は高畑さんも知ってる。