女の誘い

誠二は向かいの席に座ると、私が飲んでいるカップをチラリと見て、同じようにドリンクバーを頼んだ。

 

店員がカップを持って来てテーブルに置く。

 

誠二はドリンクバーへは行かず、置いたままのカップを両手で挟んで私の顔を見つめていた。

 

「美優…ごめん。俺、今度は何があっても…どんな相談があっても誘いにはついて行かない。」

 

私は誠二の顔を見る事なくカモミールティーを一口飲む。

 

そして、もう一口。

 

「美優…?」

 

「話はそれだけ?
なら終わりね。返事はないわ。」

 

「ホントに何もなかったんだよ!!信じてくれよ。」

 

「信じないわ。例え何もなかったとしても約束を破った事には変わりないし、何を信じるの?」

 

「……。」

 

「疲れたし、他の女の子の事で、もうイライラするのも、ビクビクするのも私は嫌なの。」

 

「もう絶対にさせないから。」

 

「そのセリフ何回目?」

 

「…。」

 

私はまたハーブティーを一口飲んだ。

 

少し沈黙の時間が流れた。
店員が「失礼します」と伝票を置いて行く。
私は何となくペコリて頭を下げた。

 

 

 

 

「……指輪、外したんだね?」
誠二は、ボソッと言った。

 

「うん。」

 

「…もう…
無理なんだね?」

 

「…うん。」

 

誠二はちょっと涙声だった。

 

「俺、まだ美優の事、大切だよ…?」

 

「私は………

 

大切にされてるなんて…思ってなかったから。」

 

息が詰まりそうになった。
私も大切って言いそうになった。

 

「ホントに美優、俺ら無理なの?」

 

「無理だよ」
私は一息置いてまた話した。
「私は、もうアンタを信用出来ないし、アンタも、また同じ事するだろから…私みたいな足かせ無い方がいいんだよ。」

 

「…もう…しないよ」

 

「サヨナラだよ」

 

「……」

 

残り一口のハーブティーを飲んだ。

 

「……俺、フラれたんだな」

 

「違うよ。私が誠二にフラれたの。ずっと前からフラれてたの。」

 

「……美優、ごめんな。

 

ずっと。

 

……ごめんな。」

 

「……うん。」

 

また沈黙が広がり
私も下を向いたまま話せなくなった。

 

多分1分程しか立っていなかったと思うけど、でも私にはとても長い時間に感じられてしまい、

 

「私、帰るね!
…じゃ!!」

 

と、コートとバッグを持って立ち上がり伝票を手にする。

 

誠二は伝票を私から優しく取った。

 

一瞬、誠二の指が私の手に触れる。

 

「…俺に払わせろよ」

 

「…」

 

「大金じゃあるまいしなっ」

 

誠二の明るい笑顔だった。

 

多分誠二なりに気を使ったんだろうと思う。

 

だから私も笑った。

 

「そ?
じゃ、お言葉に甘えて。よろしくねっ」

 

私は振り返らずに
店を出た。

 

店を出てから一度だけ店内を見た。

 

誠二も立ち上がり帰ろうとしている所だった。

 

何か急に寂しくなって、鼻の奥がツンと痛くなった。
涙が出そうになった。
誠二が席を離れレジに向かう。

 

私は、会わないように、きびすを返すと足早に自分のアパートへ向かった。